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百武日記

自信がない人が自信を持って生きるためにはどうすればよいか。日々考えたこと、学んだことを記録し、自分の武器にする。

高みにのぼるものは 「こころの最終講義(河合隼雄)」

20年以上前に著者のところにある学生が相談に来た。

「是非会いたい。緊急です」と言われて、何事かと思って会うと、

部屋に入るなり彼は、「先生は易を信じられますか」と言われた。

そこで著者が「信じます」とか「信じません」とか言うと

はい、さようならと帰るくらいの勢いだった。

 

ただ、心の専門家である著者はそういうことには慣れているので、

すぐには答えなかった。

「まあ、おかけください」と言って話を詳しく聞いてみた。

話は「実はわたしは在日韓国人の学生です」というとこから始まった。

自分は一片祖国へ帰りたいと思っていた、

非常に幸運にも帰れるようになり、ものすごく喜んでウキウキしていた。

 

ところが、何気なしに易の本を読んでみると、

自分のところには「高みに上って落ちる」と書いてあった。

もしかしたら自分の飛行機が墜落するのではないかと思った。

かといって易で飛行機が落ちるかもと書いてあったから、

船で帰りますというのは格好悪くて言えない。

かといって飛行機に乗るには怖くて仕方がないし、

でも祖国には帰りたいし・・

板挟みになった彼は著者のところに来た、というわけである。

 

こういうとき、著者のような専門家は

易を信じる、信じないといったことには答えない。

易を信じるかどうかという問題ではなく、

易をきっかけにこれほどの不安を起こすということは、

何が根本的な原因なのかを考える。

そのためには、相手の話を一生懸命に聞くことである。

一生懸命聞いてるうちに、相手は心の中で一番大事な話をする。

 

そうすると、戦争中に自分が在日韓国人であるために

どれほど日本人にいじめられ、辛い思いをしたか話してくる。

著者も外国に長くいたので、文化の違うところに住む怖さ、辛さに

共感したという。

 

そういう辛い経験があり、自分は一ぺん祖国に帰りたかった。

いろいろ調べてみると、祖国には非常にすばらしいことがいろいろある。

昔の親類もいるし、あそこにも行きたいし、ここも行きたいし、

といった話をしているうちに、学生はあることに気づいてきた。

 

遠い親類でも自分が行ったら、韓国人は特に手厚くもてなす。

しかし、当時はご飯をたくさん食べるだけでも大変な時代である。

親類は自分を歓待した分、経済的に困るかもしれない。

それから、韓国の歴史はすごいと思っているけれども、

南北の戦争もあったし、

実際に行ってみたら自分の思いとは違うかもしれない。

そんな話をしてその日は終わった。

 

それから2日に1ぺんくらい学生は話をしにくるようになった。

4回目になるころに「おかげで元気になりましたから行ってきます」と言った。

著者が「易はどうなっていますか」と言うと、

「あ、そうでしたね。そんなことで来たんでしたね」と言う。

著者は「考えてご覧なさい。すごく面白いと思いませんか。

高みに上がるものは落ちるというイメージはすごいじゃないですか」

そう言われて学生は、はっと気づいた。

 

つまり、学生は、日本で辛かった分だけ祖国というものをすごく高みに見ていた。

そのまま祖国に行ってしまうと、おそらく自分の思いと全然違う祖国が見えたり、

あるいは親類へ行って自分は喜んでいるのに、親類は非常に困っていたかもしれない。

それを著者と話すうちに、非常に現実に足のついた状態に戻った。

まさに高みにのぼるものは落ちる、

祖国に勝手に抱いていた過剰な期待からおりて、

地に足の着いた状態で帰る、ということだったのではないか。

そう伝えると、学生はすっきりした顔で帰っていった。

 

現状がうまくいかないとき、

転職すれば夢の生活になるかもしれない、

結婚すれば夢の生活になるかもしれない、

旅に出れば夢の生活になるかもしれない、などといったことを考えることがある。

だが、転職しても結婚してもたびに出ても、

それだけで自分の人生が思い通りになるわけではない。

物事には良い面も悪い面もある。

そして、

自分の都合のいいように物事は進むわけではない。

夢をもつのはいいことだと思うが、

現実的な考えがないとうまくいかない。

そう考えることで自信につながるかもしれない。

 

本日の武器「地に足のついた考え方を意識する」