洪水に負けない堤防 「抜く技術 (上原春男)」
反面、そうした地域は水害にあいやすく
佐賀も昔から何度も洪水被害に見舞われてきた。
水害防止の基本は、川の堤防を高くしたり、堤防の強度を上げて
あふれる水をせきとめる点にある。
佐賀でもそのような方法を使って水害防止に努めてきたが、
なかなか上手くいかなかった。
洪水の力に対して、せき止める力を強化して対抗しようとしても、
自然はそれを上回る力を起こす。
結局堤防は破壊されてしまい、被害は絶えることがなかった。
この不毛な繰り返しの打開策に気づいたのが、
佐賀鍋島氏に仕えた成冨兵庫である。
彼は逆転の発想を使った。堤防の強度を「弱めた」のだ。
つまり水を完全にせき止めようとするのではなく、
堤防の一部に水を逃すための「抜き穴」をこしらえた。
当然、そこから水は流れ出たり、あふれ出たりする。
兵庫は「あふれるものはあふれさせればいい」と考えて、
その流出した水を安全な場所へ導くための水路を作った。
水路を幾重にもつくって、水を次々と逃してやると
洪水のパワーは次第に衰えてくる。
そして最終的に田んぼに流れ込む仕組みを作ったのだ。
洪水被害は格段に小さくなり、
おまけに逃した水を田の用水としても活用できるようになった。
ここから著者は、日本人の古来の考え方を3つ提示している。
①ものの強度はアローアンス(余裕、柔軟性)があったほうが高まる。
すなわち、安全で丈夫なものには抜きがある。
②許容範囲を超えるエネルギーを力で押し返すのではなく、
そのエネルギーを逃す(かわす)工夫をする。
③逃したエネルギーはそのままにせず、有効再利用する。
熱力学によると、エネルギーには有効なエネルギーと無効なエネルギーがあって、
無効なエネルギーはどんなに減らす努力をしても必ず存在してしまうそうだ。
しかもその無効なエネルギーを放出しないと、
有効なエネルギーを取り出すことはできない。
言い換えれば、熱から有効な動力を取り出すには、
ムダな熱量がないといけない、ということになる。
有効な仕事をするためには、ムダやロスが必要になるのだ。
ムダや失敗を押さえこもうとしても絶対に無くならない。
洪水に対して堤防を高くしたり強くしたりしても勝てないのと同じだ。
むしろ堤防に穴を空けて水を逃し、田の用水に利用したほうがいい。
失敗、ムダ、ストレスといったものは
・押さえつけるのではなく、別方向に逃す
・無くそうとするのではなく、逆に利用する
そうすることで自信につながるかもしれない
本日の武器「失敗や無駄を無理に無くそうとせず、利用する」